旦那が救急搬送されて不安しかない妻のブログ

夫が無事回復したら見せるための備忘録です 改、日々の心情を綴ります

湯灌のこと

夫が病院から葬儀会場に搬送されたのち「湯灌の儀」を行いました。
映画「おくりびと」をご覧になった方はその内容が想像つくかと思います。
葬儀の手続きを進める中で「どうされますか?」と尋ねられ即答でお願いしました。

湯灌(ゆかん)とは
葬儀に際し遺体を入浴させ、洗浄すること。簡易には遺体を清拭(せいしき)することで済ませる場合もある。故人が男性の場合はその際に髭を剃られ、女性の場合は死に化粧が施される。地域差があり、一般的ではない地域もあるとされる。病院で死亡した場合には「エンゼルケア」などと称し、看護師による簡易な清拭が行われる。
湯灌 - Wikipedia

夫は入院以降人工呼吸器をつけていたこともあり一度も「入浴」をしていませんでした。もちろん病院では清拭はしていただいてましたがその回数は家族からすると十分とは思えないほど。
それは病院の怠慢や手落ちとは思っていません。夫の症状はその頻度に大いに関係があるだろうし、スタッフの数や業務の煩雑さの違いは病院によってあり、その中で気を配ってしていただいてると信じています。以前の病院では週に2~3回くらいが普通のようでしたが夫はどうなんでしょうか。面会が出来ないからその変化を見て判断することはできないし、取りに行く洗濯物の少なさから「あまり清拭もしてもらえないんだな」と思うしかありません。
転院後の亡くなった病院では一度だけ面会が許されましたがその時の頭髪のべたつき具合から清拭回数の少なさを想像するしかありません。
面会が出来るなら私がケアすることもできるのに・・・そう思っていましたが、それは叶わぬまま夫は亡くなりました。

最後の日、死亡宣告を受けてから家族は待合室で待機していました。その間に「エンゼルケア」が行われましたが施術後の姿を見ると髪を梳かし伸びた髭を軽く剃った程度でした。
そう、軽くです。口元や顎の湾曲した部分には剃り切れていない髭がちらほらと凝視しなくても見えました。

「この後棺に入る前にまだ綺麗にしてもらえるんだろうか?それとも私が綺麗に剃ってあげることが可能なんだろうか?」

そんな心配をしていた時に「湯灌の儀」を行うかと問われたのです。




湯灌は専門の方二名によって行われました。時間までに親族が集まりその儀式を見守りました。

まずはマッサージをして硬直した関節をやわらかくします。そして着衣を脱がせ専用の浴槽に移動します。自宅の浴槽のような深さではなく40~50cmの深さ、寝たままの体がそのまま収まる幅の浴槽に担架のようなものが設置されています。亡骸はちゃぽんと浴槽に浸かるのではなく、担架の上でシャワーを使って清められます。
最初は親族が順番に足から胸にかけて柄杓でお湯をかけ清めたのち専門家が丁寧に体を綺麗にしてくれます。
一人の方は泡立てられたスポンジで足から胸にかけて丁寧に、それこそ足の指の股まで洗ってくれました。もう一人の方は頭髪です。シャワーを使ってしっかり髪を濡らしシャンプーからトリートメントまで!
次は顔です。洗顔フォームで洗うのですが、目や口に入らないように注意するのは生きてる人にするのと同じように。シェービングクリームをつけて顔から首元まで丁寧に剃ってくれました。仕上げは化粧水・乳液まで!
病院では乾燥してカサカサで垢もあった肌がとても悲しかったのですが、モチモチ肌になっていて私の顔ではないもののとてもうれしかったものです。夫の表情も変わるわけないのですが心なしかスッキリ気持ちよく一安心したような表情に見えました。
再びお布団に移動して「男性だけど少しだけお化粧を」ということでファンデーションでお化粧すると血色が戻ったかのようで「夫の心臓は実はまだ動いてるんじゃないか」と逆に不安になるほど生き生きとしていました。

その後、用意したスーツを着せてもらいました。
白装束しかダメだと思っていたところ「納棺の着衣はどうしますか?」と事前に聞かれて、「故人が一番落ち着くものを着せてあげてください」と言われたのでスーツを持参しました。
野球のユニフォームを着せてあげたいとも思ったんですが、やっぱりパリッとスーツを着こなしている夫が一番かっこいいと思ったので直近に一緒に買いに行ったスーツを着せてあげようと。
しばらくの入院生活で大きな体は痩せてスーツにもゆとりが出ていたのですが、それも目立たないように綺麗に調整して着せていただきました。
その後、親族男性陣でお手伝いして納棺となり、湯灌の儀は終了となりました。




長きにわたる入院生活で本当に疲れた表情だった夫が湯灌の儀を受けて、ふっくらした肌で生気を取り戻したような。
ずっとお風呂に入れなくて気持ち悪かっただろうに、頭の天辺から足の先まで綺麗にしてもらい「ふ~」と一息ついたような安らかな表情で旅立てるのは残された家族としても安心して見送ることができました。
多くの方と最後のお別れをするのに疲れた顔ではなくなって本当によかったです。

専門技術を身に付けた方々ですが、「痛い・痒い・熱い・冷たい」を伝えられない故人に対し十分配慮のある施術を行い、家族が大丈夫かしら?と不安に思う瞬間もなく、とてもスッキリとまるでいつもお風呂から上がってきたときの気持ちよさそうな表情に戻してくれて湯灌の儀をしてよかったと心から感謝しています。

葬儀会場のスタッフさんとはまた違い、故人に直接触れるお仕事です。
格別の配慮も必要だろうし、簡単な気持ちでなれるものでも誰にでもできることでもないと思います。そのお仕事に携わろうと決めるには大きな覚悟があったでしょうし、その人の心にある優しさが垣間見れてよい経験をさせていただきました。

『夫のために』と思って依頼しましたが、夫が私に与えてくれた素晴らしい機会だったと思えます。